家族の病気を、職場へ報告する
病気の告白の次の日は会社だった。
頭にもやがかかったようではあるが、会社には報告しなければいけないんだろうなという常識が、社会人を8年もしてるとよぎる。
支店長に言わなくちゃ。
ちなみに私は銀行勤めである。
朝イチに支店長のところへ行けず、
日中も忙しそうで話せず。
本来なら、直属の上司に話した上で、支店長につないでもらうのだろうか。
でも結婚の報告などとは違うし…
こんなことインターネットで調べる気にもなれない。
直属の上司には、細かく話したくなかったのだ。信頼していないわけではないけれど、直属の上司に話すイコールその同じ役職の人たち全員に知られる という気がした。大体のことはそうやって共有している。
普通の人はどうやって報告してるのだろう。
こんな話、したら絶対私は泣いてしまう。
支店の人みんなに知られるのは嫌だ…。
結局、常識外れもいいとこかもしれないが、定時で上がって帰り道に支店に電話して、支店長につないでもらった。
「お忙しいところすみません。昨日私も知ったのですが、私の母が、白血病になってしまいまして…」
出だしから声が震えてしまった。涙でぐじゅぐじゅになりながらも経緯を話す。支店長は大層心配して下さった。「担当上司や周りのみんなには詳しい病名とか話すのがちょっと…」と言うと、快く了承して下さった。「担当上司には俺から簡単に言っておくから。明日また話そう」と。有難い…。
結局、翌日の朝、会議室で今後のことなどを話した。
「家族がいちばん大事だから。」
「お母さんに付いていたい日は、いつでも休むなり早退するなりしていいよ」
本当に、本当に有難いお言葉をいただけた。
また泣いてしまい、すみませんと言うと、
「俺も妹が癌になった時は、泣いてばかりいたよ。」と。
直属の上司に初めに言いたくなかったのは、今後の私の身の振り方について、何ら決定権がない彼に話して何になるのだろうという思いがなかったかと言ったら嘘になる。
支店長が休んでいいよと言えば誰も何も言わない。
最初からこんな狡い算段でいたわけではないが、結果として支店長がとても優しい人で、親身になって下さったことでその後の私はとても救われている。
病気のことを話して、それで終わりではないのだ。
そこから始まる日々において、それでも仕事最優先でやれよという視線を誰からも受けずに済んだことは感謝してもしきれない。
実際、私は今日まで、事あるごとに有休を使わせていただき母の用事に対応できている。
もしこれで、「そっか大変だけど…仕事に支障が出るようなら言ってね」なんて言われていたら、 有休なんて絶対使えなかっただろう。そして、支障が出るも何も私のやってることなんて誰でも出来るじゃんと泣き、暇な時間でもあろうものならこの時間ママといられたらどんなに良いだろうと泣き、もう辞めてしまおうかと悩み、病気以外のことでの心労も重なり体がついていかなくなり…となることが容易に想像出来る。「仕事とは」という哲学なんて正直今は考えられない。
もっと責任感のある人なら、入院する日に心細がる母親がいても、仕事に来るのだろうか。
もっとやりがいのある仕事をしている人なら、骨髄穿刺を外来でやって帰る母親に、自分は迎えに行けないからタクシーを使ってと言うのだろうか。
周りを見渡すと、きっとそうするんだろうなという男の人たちばかりだ。
いや女の人でも、私以外の人は、家族が病気でも頻繁に休んだり早退したりしないんだろうなと思う。
でも、私以外の人は、家族が白血病じゃあないもんな。
うらやましいな。